都議選雑感

東京都議選が終わった。民主党の勝利理由として、「麻生自民の不人気」というのが定説だが、ちょいとそれでは当たり前すぎて面白くない。そこで、ある仮説を立ててみたい。

現在の日本において、選挙で圧倒的勝利を収めるのは、「あなたの一票で社会が動く」という幻想を上手に与えることである。

近年の選挙で、大勝利をおさめた例としては、やはり2005年の郵政選挙だろう。郵政選挙における自民党の勝因として、もっとも興味深い解説は「溜池通信」による以下のようなものだ。

〇さて今回の衆院選挙では、投票率の上昇によって、どどんと1000万人近くの有権者が上積みされた。そのうち、かなりの部分が自民党に投票したらしい。自民党に2500万票なんて、過去10年なかった数字である。今回の自民党の勝因は、このニューカマーたちによるところが大である。さて、どんな人たちが新たに選挙に加わったのか。

〇ご覧いただきたいのがこのページ。 2000年と2003年の年齢別投票率を見ると、20代から30代前半の投票率が4〜5割と低くなっている。ひょっとすると、2005年選挙においてはこの部分がドーンと増えたのではないだろうか。理由はおそらく「ホリえもん効果」。団塊ジュニア世代のヒーロー、ホリえもんの参戦によって、若者が大挙して投票に出かけるようになった。
ホリえもん世代は、就職で苦労した年代である。上の世代がバブルに間に合ったのに、彼らは就職氷河期に直面し、社会人になってからも辛酸をなめた。フリーターやNEETも少なくない。そんな彼らから見れば、「公務員の地位にこだわる郵政職員28万人」は、とんでもねえ奴らだ、ということになる。だからアンケートを取ると、「郵政よりも年金に関心がある」とは答えるが、郵政民営化には賛成であり、その心情の奥底には、「あいつら許せねえ、小泉さん、頑張れ!」という怒りがある。そして、郵政職員を守ろうとする民主党は、非常にイメージが悪くなる。

かんべえの不規則発言

今回の都議選でも、10パーセント近くの投票が上乗せされた。ではどのような層が投票に行ったと考えるのが自然か。当然ながら、普段は選挙に行かない層である。地方議会の選挙などというのは、首長選挙と異なり、争点もなく、いきおい候補者名の連呼になりやすい。そんな選挙に貴重な休みをつぶして、誰が行くかぁ、という層だ。

ところが今回は、願ってもないお祭りである。自分の一票で、時の総理大臣のクビを切れるかもしれないのだ。仮に総理大臣のクビが切れないにせよ、今度は解散という形で衆議院議員全員のクビを切れる可能性も残されている。昨年からの悪化する経済情勢の中、自分がクビ切りにあった人、あるいは首切りにあいそうな人、今のところ首切りの危険がない人、どんな人にとってもまたとないショーだろう。

ただ、郵政解散に比べると、振り付け師の質が落ちたなぁと思う。というのは、少なくとも郵政解散を行った小泉純一郎は、政策の当否はさておき、自分が一生かけて訴えてきた政策の実現のために、自民党の運命をチップとして賭けた。しかし、今回の民主党は自らは負ける可能性のない戦いで、しかも具体的な手形を切ることなく、「政権交代」という空手形のみで勝利をつかみ取ったことだ。

もちろん一義的にはそんなあやふやな政党に勝たせる自民党が悪い。二者択一とは、多くの場合、よい方を選ぶのではなく悪くない方を選ぶ決断であることが多い。今回も、多くの有権者にとってその例にもれないということなのだろう。

空手形の乱発は、いずれしっぺ返しを食うことになるはずだ。それを民主党が食うなら、今の自民党と同じく、栄枯盛衰は世の習い、とくに非難さるべきではない。ただ、自民党もダメで民主党もダメ、となった時でも、国民が政党政治・議会政治に見切りをつけないと思うのは、この国の歴史経験からしてみて楽観的に過ぎるように思えてならない。